俺的微妙小説その7『殺戮にいたる病』

我孫子武丸が書いたこの小説、微妙である。※ネタバレ全開

この小説、主人公で殺人鬼の男が街で出会った女を殺していくというサイコサスペンスで、同時に大学生の息子が
犯人ではないか?と疑う母親の視点や犯人を追う元刑事の視点が交互に挟まれ、死姦で興奮し殺した女の乳房や
性器を切り取って自宅に持ち帰る犯人の異常性が描かれたり、母親が息子のゴミ箱から血液の入ったビニール袋を
見つけ徐々に息子が犯人であることを確信していく展開や元刑事が被害者の妹と協力して姉に成りすまして
犯人をおびき寄せる展開などテンポ良く進んで行くのはなかなか面白いのだが、被害者の妹が犯人をホテルに
誘い込むが殺されかけ、そこに謎の男が現れ犯人ともみ合いになり殺され犯人が逃走するがその殺された謎の男を
元刑事が犯人と思い込むのはいまいち謎で、結局犯人は自宅に戻り母親を死姦していたところを警察によって
逮捕され、犯人は大学生の息子ではなく大学の教授で夫だったという叙述トリックが明かされホテルで殺されたのは
息子だったことが判明するがそこで終わりで詳しい説明がないのはいまいちで、息子は父親が犯人であることを
知って犯行を食い止めるためにホテルに行ったようだがなぜ自分の部屋のゴミ箱に血液の入ったビニール袋が
あったのかは説明がなく、そもそも息子が犯人だと思ったらその父親が犯人だった、というトリックも息子の
キャラがほぼ描かれていないだけにどっちでもいい感があるのは面白味がない。
犯人は岡村孝子の『夢をあきらめないで』が好きで殺すシーンではその曲が流れるというのもいまいち合って
いない感があるが、これなら元刑事を犯人にした方がまだ意外性があったことだろう。

というわけで、色々と微妙な今作。
それでも我孫子武丸作品の中では最高傑作らしいが、もっと面白いものを出して欲しいものである。
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